2.附属桃山地区学校園幼小中連携研究
京都教育大学附属桃山地区学校園(附属幼稚園、附属桃山小学校、附属桃山中学校)では、異年齢の幼児・児童・生徒が交流を深めながら相互に学び合っている。「異年齢の子どもが関わり合い学び合うこと」が「豊かな育ちを生み出す」という仮説のもと、附属桃山地区学校園の教職員は、3歳から15歳までの子どもが学び合う姿を求めて学びの生きる場づくりに取り組んでいる。
本校園の幼小中教職員は、幼小・小中の異校種間でとぎれがちであった子どもの発達の連続性を円滑につなぎ、幼児・児童・生徒が今までに出会ってきた学習内容や今後出会うであろう学習内容を異校種間で共有し、互恵的な学びのある連携プログラムをつくる研究を進めてきた。そして現在、学習指導要領改訂等で明確になった「生きる力」の育成、バランスのとれた知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力の育成、豊かな心や健やかな身体の育成など、「新学習指導要領の理念をふまえた上での、子どもが相互に学び合う姿を追求した連携研究」「発達の連続性に応じた保育・授業の展開」を課題にして研究を行っている。
3.研究の経過
平成7年度から連携研究を始め、平成8年度から研究発表会を同時開催し、平成13年度からは「豊かな育ちを生み出す学びの環境づくり」という研究主題のもとに、幼小中の教職員が合同研究を始めた。平成13・14年度の第1次研究では「12年間の学びをつなぐ」、平成15・16年度の第2次研究では「子どもの側から教育を発想する」、平成17・18年度の第3次研究では「自立と共生に向かう学習力を育む」という副題のもとで研究を重ね、それぞれの研究2年次には研究発表会を開催してきた。平成19・20年度の2年間は「学びの生きる場づくり」という主題のもとで「発達の連続性に応じた実践として、異年齢の子どもが相互に学び合う姿」を追求し「3歳から15歳までの子どもが学び合う姿を求めて」という副題のもとで、異年齢の子どもが関わり合い学び合う場を含む連携プログラムの作成をめざしてきた。
4.平成21・22年度の連携研究について
平成21年度からは、「活用力を高める教育プログラムの開発」というプロジェクトテーマのもと、「自らの考えを広げ、深める子−互いの考えの伝え合いを通して−」を研究主題にして、コミュニケーション力や表現力などの活用力を高めることをねらいにした実践研究に取り組んだ。これは、幼稚園教育要領・学習指導要領改訂の基本方針のひとつである「思考力、判断力、表現力等の育成」に対応した研究で、その基盤となることばの能力を育むことに焦点をあてたものである。また、幼小および小中の接続期においては、その学習保育内容・方法等に配慮した具体的な教育プログラムを提案できるよう実践を重ねてきた。そして、次のような3つの教育プログラムのもとに交流授業をおこない、連携教育を実践した。
(1)異年齢交流プログラム(幼稚園児と中学生徒、幼稚園児と小学児童、小学児童と中学生徒との 交流授業)
このプログラムは、年上の子どもは年下の子どもとの交流を通して、自分の学びを確かなものにしていくこと、年下の子どもたちは年上の子どもたちとの交流を通して、憧れをいだき育ちゆく自分のモデルを見つける機会とすることを主なねらいとしている。それぞれの学校園は独自性を保ちつつも、それぞれの校園が連続した12年の中で園児・児童・生徒の育ちを見守り、交流授業をおこなっている。
(2)接続期交流プログラム(年長児と小1年生との交流、小6年生と中1年生との交流)
幼小の接続期においては、園児の小学校での遊び交流、給食交流などが、小学入学時における不安を軽減している。接続期の交流は、園児の小学校での生活リズムやルール順守へのスムーズな適応につながることをねらいにしている。また小1年生においては、園児との交流で人との関わりの幅を広げていく。
小中の接続期にあたる小6年生と中1年生の交流授業は、小6年生には「1年後の自分の姿」をイメージさせることを、中1年生には1年間の自分の成長を実感させることをおもなねらいとしている。また、小6年生の子どもたちには中学校での学習を事前に体験させ、学習不適応をなくすこともねらいとしている。
(3)教師交流・大学連携プログラム
大学教員の協力を得るという附属ならではの特性を活かして、「本物」と触れる豊かな学びをおこなっている。これは、大学教員の理論知と実践者の経験知を融合することで、より確かな学びをもたらしている。また、教師間交流により広い視点からの研究が進められている。
5.今回(平成23・24年度)の研究について
「学びの主体性を育む連携教育」というテーマのもと、附属桃山地区学校園では、学習者間において学習を進めるための「提案力」を具体的な「主体性」と捉え、研究を進めていくことにした。そもそも「主体性」とは、自分の意志・判断で行動しようとする態度のことを言い、主に、個に対してその育成をはかるものである。しかし、今回の「幼小中連携研究において育成すべき主体性」とは、他者との学び合いの中で意欲的に学習に取り組もうとする態度、他者と自発的・自主的に活動しようとする態度のことを指すことにしている。そのため、単なる個の「主体性」の発動・育成については、今回の研究対象にしないこととした。つまり、今回の研究においては、他者との学びを共有するための「提案力」を具体的な「主体性」と捉えることにした。
連携教育交流学習は、異年齢の幼児・児童・生徒が共同して学習(活動)をおこなう。このような中で自分の学びを人に伝え、人の学びを理解しようとするとき、その学齢差が大きければ大きいほど、大きなコミュニケーション力・すぐれた提案力が必要となる。つまり、他者との学びを共有するための「提案力」は、連携教育交流学習で、より深く育成できるものと考える。
「提案力」は、学習者間の相互関係・双方向の活動の中に生まれる。そして学校教育によって系統的に伝達され形成されていく能力、いわゆる学力の一つととらえることができる。また、「提案力」は、学習者間における学習の共有に、不可欠なものでもある。
連携教育交流学習における各WGの「提案力をのばす学習活動」の具体例としては、「コミュニケーション力の育成」「説明力の育成」「計画力の育成」「段取り力の育成」が挙げられる。そして、学齢差の大きい場面ほど、より深い相互理解、よりすぐれた提案力が必要となり、まさに幼小中教員にとって、研究・工夫のしどころとなる。
連携教育交流学習推進のためのより深い相互理解、よりすぐれた提案力をのばす学習活動には、学齢差(相互関係)によって生じるストレス(壁)を解消しなければならない。ストレス解消のためには「自己肯定感」「自尊感情」「自己有用感」を高める取り組みが必要である。自己肯定感は、生徒が日々の生活を送る上での、心の支えであり、それもしっかりした支えである。心を支える柱がしっかりしていれば、些細なことで心が崩れることはない。様々なものにも挑戦でき、失敗しても何度でも立ち上がれる。異校種間での交流学習には、この何度でも挑戦してみよう何度でも立ち上がろうとする「自己肯定感」「自尊感情」「自己有用感」が必要である。つまり、学習を進めるための「提案力」の育成には、提案力をのばす学習活動とともに側面からの「自己肯定感」「自尊感情」「自己有用感」を高める取り組みが必要である。
一方、学びの主体性を育むための学習環境づくりの例としては、「少人数グループの活用」「個々が活躍できる場づくりの工夫」「お互いを認めあえる場づくりの工夫」などが挙げられ、各教科の授業で日々実践されている。
平成21年度より、幼稚園では新教育要領による保育が実施されており、さらに、今年度より小学校でも新学習指導要領による教育が始まっている。来年度は中学校のすべての教科と高校の数学、理科ではじまる。これからの教育は「ゆとり」でも「詰め込み」でもない。自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考えて行動し学習する。まさに、「主体性のある学習や活動」が求められる。自らを律し、他人と協調し、他人を思いやる豊かな人間性をやしない、知・徳・体のバランスのとれた「生きる力」が必要である。今まで以上に「主体性のある学習や活動」ができるよう「自己肯定感」「自尊感情」「自己有用感」を高める取り組みが求められる。
さて、この時期になぜ「自己肯定感」「自尊感情」「自己有用感」かと問われる。幼小中連携研究の中では、しばしば「小一プロブレム」「中一ギャップ」が話題になる。小学校入学直後の児童に見られる集団行動のとれない学校生活不適応の防止や中学1年時の学習・生活不適応による暴力行為やイジメ・不登校などの問題行動の防止は、望ましい人間関係づくりとともに、「自己肯定感」「自尊感情」「自己有用感」を高める取り組みが必要といわれる。このことからも、学びの主体性を育む連携教育を進めるには、提案力をのばす学習活動とともに「自己肯定感」「自尊感情」「自己有用感」を高める取り組みも必要と考える。
6.平成24年度の各ワーキンググループの研究主題一覧
国 語 |
思考力・判断力・表現力を育成する指導と評価
−新聞を活用した総合提案的な学習活動を通して− |
社 会 |
社会参画の意識を育てる |
算数・数学 |
学びあい、算数・数学的思考を楽しむ子を育てる |
理 科 |
さまざまな関わりの中で、
科学的な思考力・判断力・表現力を高め合う子を育てる |
音 楽 |
かかわることによって主体的に表現する子を育てる
−日本の音楽に着目した学びの場づくり− |
図工・美術 |
主体的に楽しく絵にふれあえる子を育てる |
保健体育 |
自発的に取り組む子を育てる |
家庭・技術家庭 |
健康的な生活をめざす子を育てる
−食生活から− |
英 語 |
やりとりを楽しみながら自らすすんで学んでいく子を育てる
−ともに作り上げるプロジェクト型協同授業を通して− |
生活・総合 |
自らの学びをつくり、ひろげる子を育てる |
道 徳 |
自立と共生の力をもつ子を育てる
−自尊感情を高める学習活動を通して− |
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理科 |
理科 |
理科 |
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音楽 |
音楽 |
音楽 |
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英語 |
英語 |
英語 |
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家庭・技術家庭 |
家庭・技術家庭 |
家庭・技術家庭 |
7.3つの教育プログラムと交流授業:中学校関係分の内、主なものを紹介します。
1.異年齢交流プログラム
(幼稚園児と小学児童、小学児童と中学生徒、幼稚園児と中学生徒との交流授業)
このプログラムは、年上の子どもは年下の子どもとの交流を通して、自分の学びを確かなものにしていくこと、年下の子どもは年上の子どもとの交流を通して、憧れをいだき育ちゆく自分のモデルを見つける機会とすることを主なねらいとしています。それぞれの学校園は独自性を保ちつつも、それぞれの校園が連続した12年の中で園児・児童・生徒の育ちを見守り、交流授業をおこなっています。
平成24年11月21日 家庭 MET「こどもの食」コースの生徒が小学校の給食献立をつくりました 中2,3 小3
平成24年7月11日 英語 小中連携英語をおこないました 中1 小4
平成24年6月18日 道徳 小学3年生と中学3年生がいっしょに道徳の授業を受けました 中3 小3
平成24年5月25日 美術 小中連携美術「森をデザインしよう」 中1 小5
平成24年2月21日 家庭 幼稚園で自作絵本の読み聞かせ! 中2 年少児・年中児
平成24年2月15日 社会 災害避難支援マップづくり 中1 小3
平成24年2月3日 数学・体育 幼小中連携教育「仲良くいっしょにお勉強」 中1 小5、中3 小6
平成24年2月1日 道徳 小中連携道徳の授業をおこないました 中1 小4
2.接続期交流プログラム
(幼稚園年長児と小学1年生との交流、小学6年生と中学1年生との交流)
幼小の接続期においては、年長児の小学校での遊び交流・給食交流が、小学入学時における不安を軽減します。接続期の交流は、年長児の小学校での生活リズムやルール順守へのスムーズな適応につながることをねらいにしています。また小学1年生においては、園児との交流で人との関わりの幅を広げていきます。
小中の接続期にあたる小学6年生と中学1年生の交流授業は、小学6年生には「1年後の自分の姿」をイメージさせることを、中学1年生には1年間の自分の成長を実感させることをおもなねらいとしています。また、小学6年生の子どもたちには中学校での学習を事前に体験させ、学習不適応をなく
すこともねらいとしています。
平成24年7月9日 家庭 小中連携家庭科「卵焼きを極めよう!!」をおこないました 中1 小6
平成23年12月13日 理科 教科別授業研究(公開授業)をおこなっています 中1 小6
3.教師交流・大学連携プログラム
大学教員の協力を得るという附属ならではの利点を活かして、「本物」と触れる豊かな学びをおこなっています。これは、大学教員の理論知と実践者の経験知を融合することで、より確かな学びをもた
らします。また、幼小中の教師間交流により広い視点からの授業が進められます。
平成24年7月11日 国語 「漢詩」作りに挑戦しています 中2
平成23年12月8日 国語 校長による1年生国語短歌創作授業がおこなわれました 中1
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