京都教育大学附属桃山地区学校園幼小中連携教育

自らの考えを広げ、深める子を育てる

− 互 い の 考 え の 伝 え 合 い を 通 し て −

1.はじめに
 京都教育大学附属桃山地区学校園(附属幼稚園、附属桃山小学校、附属桃山中学校)では、異年齢の園児・児童・生徒が交流を深めながら相互に学び合っています。「異年齢の子どもが関わり合い学び合うこと」が「豊かな育ちを生み出す」という仮説のもと、附属桃山地区学校園の教職員は、3歳から15歳までの子どもが学び合う姿を求めて学びの生きる場づくりに取り組んでいます。本校園幼小中連携教育の紹介リーフレットとともに、その研究概要をお知らせいたします。

2.附属桃山地区学校園をとりまく地域
 附属桃山地区学校園の所在地、京都市伏見区は桂川・鴨川・宇治川など京都市地域のほとんどの水系が集まっています。また、疏水などの人工河川や地下水などの水環境も豊富で、「水」が伏見のイメージとなっています。江戸時代、淀川の水運が「京都の玄関口」伏見港を繁栄に導き、地下からわき出る水が伏見の名酒を造り出してきました。学校園は桃山丘陵西部の旧伏見市街地にあり、ここは元来街道筋や城下町・社寺の門前町として形成され発展してきました。そのため多くの史跡があり、本校の所在地名「井伊掃部東町」も、井伊掃部守(いいかもんのかみ)の邸宅跡から由来しています。学校の北には伏見稲荷大社や藤森神社があり、東には伏見桃山城や桓武天皇陵・明治天皇陵の森が拡がっています。坂本龍馬ゆかりの寺田屋も徒歩圏内にあります。「総合的な学習」や課外活動・教科の発展学習など、多様な調査活動を展開するのにふさわしい地域といえます。

3.附属桃山地区学校園幼小中連携研究
 本校園の幼小中教職員は、幼小・小中の異校種間でとぎれがちであった子どもの発達の連続性を円滑につなぎ、幼児・児童・生徒が今までに出会ってきた学習内容や今後出会うであろう学習内容を異校種間で共有し、互恵的な学びのある連携プログラムとしてつくりあげていく研究を進めてきました。そして現在、学習指導要領改訂等で明確になった「生きる力」の育成、バランスのとれた知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力の育成、豊かな心や健やかな身体の育成など、「新学習指導要領の理念をふまえた上での、子どもが相互に学び合う姿を追求した連携研究」「発達の連続性に応じた保育・授業の展開」を課題にして研究を行っています。

4.研究の経過
 平成7年度から連携研究を始め、平成8年度から研究発表会を同時開催し、平成13年度からは「豊かな育ちを生み出す学びの環境づくり」という研究主題のもとに、幼小中の教員が合同研究を始めました。平成13・14年度の第1次研究では「12年間の学びをつなぐ」、平成15・16年度の第2次研究では「子どもの側から教育を発想する」、平成17・18年度の第3次研究では「自立と共生に向かう学習力を育む」という副題のもとで研究を重ね、それぞれの研究2年次には研究発表会を開催してきました。平成19・20年度の2年間は「学びの生きる場づくり」という主題のもとで「発達の連続性に応じた実践として、異年齢の子どもが相互に学び合う姿」を追求し「3歳から15歳までの子どもが学び合う姿を求めて」という副題のもとで、異年齢の子どもが関わり合い学び合う場を含む連携プログラムの作成をめざしてきました。

5.現在の連携研究について
 平成21年度からは、「活用力を高める教育プログラムの開発」というプロジェクトテーマのもと、『自らの考えを広げ、深める子−互いの考えの伝え合いを通して−』を研究主題にして、コミュニケーション力や表現力などの活用力を高めることを目的とした実践研究に取り組んでいます。これは、新幼稚園教育要領・学習指導要領改訂の基本方針のひとつである「思考力、判断力、表現力等の育成」に対応した研究で、その基盤となることばの能力を育むことに焦点をあてています。また、幼小および小中の接続期においては、その学習内容・方法等に配慮した具体的な教育プログラムを提案できるよう実践を重ねています。
 平成22年度の各ワーキンググループの研究主題は次の通りです。

国 語 情報の読み解きを通して思考力・判断力・表現力を育てる
−新聞を活用した幼小中連携プログラムの創造−
社 会 多様な立場や視野に立って社会的思考力・判断力・表現力を育てる
−社会現象を多角的に捉えることを通して−
数 学 言語活動を充実させ表現力・思考力・判断力を育てる
−少人数グループでの学び合いのある授業−
理 科 観察実験を通して集団の中で、思考力・判断力・表現力を育てる
−学級やグループの話し合いに着目して−
音 楽 伝え合うことによって、表現の力を育てる
図工・美術 表現や鑑賞を通して、自己の構想を言語で表現する力を育てる
−デザインの世界を広げ、深める−
保健体育 人の思いを感じとれる子を育てる
−ダンスに着目して−
英 語 関わりを楽しむ学習活動によって、自己表現のできる子を育てる
道 徳 よりよい人間関係を築く力を育てる
−言語による他の人とのかかわりを通して−
生活・総合 自分の考えを深め、表現できる子を育てる
−友だちとの共感的な伝え合いを通して−
食 育 食を楽しめる子を育てる
−食の交流を通して−

6.交流授業プログラム(幼小中連携教育プログラム)について
 現在、幼小中連携教育を進めるにあたり、次のようなプログラムで交流授業をおこなっています。

(1)異年齢交流プログラム(幼稚園児と中学生徒、幼稚園児と小学児童、小学児童と中学生徒との 交流授業)
 このプログラムは、年上の子どもは年下の子どもとの交流を通して、自分の学びを確かなものにしていくこと、年下の子どもたちは年上の子どもたちとの交流を通して、憧れをいだき育ちゆく自分のモデルを見つける機会とすることを主なねらいとしています。それぞれの学校園は独自性を保ちつつも、それぞれの校園が連続した12年の中で園児・児童・生徒の育ちを見守り、交流授業をおこなっています。

(2)接続期交流プログラム(年長児と小1年生との交流、小6年生と中1年生との交流)
 幼・小の接続期においては、園児の小学校での遊び交流、給食交流などが、小学入学時における不安を軽減しています。接続期の交流は、園児の小学校での生活リズムやルール順守へのスムーズな適応につながることをねらいにしています。また小1年生においては、園児との交流で人との関わりの幅を広げていきます。
 小・中の接続期にあたる小6年生と中1年生の交流授業は、小6年生には「1年後の自分の姿」をイメージさせることを、中1年生には1年間の自分の成長を実感させることをおもなねらいとしています。また、小6年生の子どもたちには中学校での学習を事前に体験させ、学習不適応をなくすこともねらいとしています。

(3)教師交流・大学連携プログラム
 大学教員の協力を得るという附属ならではの特性を活かして、「本物」と触れる豊かな学びをおこなっています。これは、大学教員の理論知と実践者の経験知を融合することで、より確かな学びをもたらしています。また、教師間交流により広い視点からの研究が進められています。

7.異年齢交流プログラム(幼中交流)の実践例(各種広報より引用)
〔小中交流〕 =11月の附属桃山小学校の給食献立はMET「こどもの食」コースの生徒が考えました=(本校保護者宛プリントより)

 11月18日の附属桃山小学校の給食献立は、本校2・3年生のMET「こどもの食」コースの生徒が考えました。9月に小学3・6年生にとった「食についてのアンケート」をもとに献立メニューをつくり、10月に実際に調理実習をおこなった上で、完成させたものです。もちろん小学校の栄養教諭や調理員さんの大きなサポートがあって完成した献立です。野菜の苦手な人にも食べやすい「野菜たっぷりハンバーグ」、あまり食べられない昆布を11月15日の「昆布の日」にちなんで食べてみようという「サツマイモと昆布の煮物」、あっさりして飲みやすい「卵スープ」の3品です。この献立メニューを考えた2・3年生のMET「こどもの食」コースの生徒たちは、18日に小学3年生と給食をともにさせていただきました。自分たちが考えた献立メニューが実際に小学校の給食となり、たくさんの小学生に笑顔をつくることに食の大切さを再認識しました。空になった食器を前に、小学生と共にすごした給食の時間はとても楽しく感じました。このことは京都新聞19日朝刊の記事になっています。

〔幼中交流〕 =中学生は名保育士さん−幼稚園との交流授業−=(大学広報誌より)

 家庭科の「家族と家庭生活」子どもの成長・遊び道具の製作の単元では、幼児向け絵本づくりをおこなっています。幼児の心身の発達程度をふまえたうえで「歯をみがこう」「帰ったら手を洗おう」「友だちと仲良くしよう」といった生活習慣を身につけさせることをねらった絵本をつくります。数時間の絵本づくりの後、自作の絵本をもって幼児との交流をおこないます。今年も隣接している附属幼稚園で、絵本の読み聞かせ実習をおこないました。幼児は絵本を家族や身近な人に読んでもらうことを喜びます。絵本は言葉や知識を豊かにしてくれるだけでなく、幼児の創造力や感性を育てることにも役立ちます。中学生は幼児との触れ合いやかかわりを楽しみながら、ゆっくり読むこと文章にこだわらず幼児とのやりとりを楽しむことに注意をはらいながら、幼児を絵本の世界に引き込んでいきました。幼児パワーに圧倒されての実習を終えた生徒たちは、口々に「疲れた」と言って帰校します。しかし「はじめに、みんなが歌をうたってくれてうれしかったです。絵本を読み始めると静かにきいてくれたのがすごくうれしかったです。」「久しぶりに小さい子どもたちと遊んで楽しかったです。絵本もしっかり読めたし、何よりも楽しくきいてくれたのがよかったです。一緒に遊んでいると何となく心が和んできます。」「幼稚園の先生を見ていて本当に子どもに優しくてすごいと思いました。目を見て話す、幼児の言っていることを真剣にきく、本当に優しい顔でした。」「幼児がなついてくれて時間を忘れて遊んでしまいました。幼児が隣にいるだけでも心も体も温かくなりました。」と、すべての生徒が満足そうにさわやかな笑顔で様子を話してくれました。

8.その他の交流授業(本校ホームページ つゆくさアルバムより)

仲良くいっしょにお勉強
 桃山地区の附属学校園(幼・小・中)では、異年齢の園児・児童・生徒が交流を深めながら相互に学び合っています。このことが学校文化となって継承されていくことを願い、幼小中の教員が協同して連携研究に取り組んでいます。本校の生徒たちは13歳から15歳という人生で一番多感な時代を附属桃山中学校で過ごします。1月21日の選択理科授業で、22日の美術科授業で、25日の選択音楽科授業で、26日の家庭科授業で園児・児童・生徒が楽しく相互に学び合っている姿を見ました。写真にて紹介します。

9.今後について
 人と人とのつながりが希薄になってきたといわれて何年もが過ぎました。13歳から15歳という人生で一番多感な時代を過ごす中学校で、異年齢の子どもと関わり合い学び合う場を設定できる附属桃山地区は、その学習環境を今以上に有効活用しなければなりません。今や「お金や物質的な豊かさ」ではなく、「心の豊かさ」が幸せをはかるものさしといわれるようになってきました。ほうびをもらうことを目的とせず「幼児が喜んでくれることがうれしい」と生徒が感じる授業をおこなえることに幼小中連携の意義を感じます。子どもが相互に学び合う姿を追求した附属桃山地区学校園の連携研究を深化発展できますよう、今後ともご支援をお願いいたします。

京都教育大学附属桃山中学校